① 糖質(炭水化物):スピードを支配する最強の瞬発燃料
糖質は、体内で最も素早くエネルギー物質「ATP(アデノシン三リン酸)」へと変換される、
持久系アスリートの主たるエネルギー源です。
1gあたり約4kcalのエネルギーを発生し、
マラソン中の心肺負荷が高い局面(有酸素性閾値や乳酸性作業閾値を超えるペース)において、
最も優先的かつ迅速にATP(エネルギー物質)を合成できる唯一の栄養素です。
糖の種類:単糖・二糖・多糖
糖質は、その構造単位である「単糖」が
いくつ結合しているかによって分類されます。
- 単糖類
- 二糖類
- 多糖類
単糖類(ブドウ糖:グルコース、果糖:フルクトース):
これ以上加水分解されない最小単位です。
小腸の粘膜にある専用の輸送体(グルコースはSGLT1、果糖はGLUT5)を通じて、
そのままの形で毛細血管へと急速に吸収されます。
二糖類(ショ糖:スクロース、麦芽糖:マルトースなど):
単糖が2分子結合したものです。
例えばショ糖は「グルコース+フルクトース」で構成されており、
小腸の二糖類水解酵素(スクラーゼなど)によって瞬時に単糖に分解されてから吸収されます。
多糖類(デンプン、グリコーゲンなど):
ブドウ糖が数百から数千個、鎖状かつ枝分かれ状に複雑に連結した巨大分子(高分子)です。

多糖類になるほど分解吸収に時間がかかります。
グルコースに分解し、グリコーゲンへ再構築する。その理由は浸透圧
食事から摂取された糖質は
ブドウ糖(グルコース)に分解されて血液中を流れますが、
筋肉細胞や肝臓へと取り込まれると、
再び多糖類である「グリコーゲン」に組み立て直されて貯蔵されます。
なぜ、ブドウ糖(グルコース)のままで細胞内にプールしないのか。
その理由は「細胞内浸透圧のコントロール」です。
溶液の浸透圧(水を引っ張る力)は、
溶けている物質の質量ではなく、「分子の個数(モル濃度)」に比例します。
もし、体内に貯蔵している約500g(約2,000kcal相当)の糖質を、
すべてブドウ糖という単一のバラの分子(モル濃度:約400mM相当)のままで
筋肉細胞内に保管しようとすると、
細胞内の浸透圧が限界を突破して跳ね上がります。
すると、浸透圧の勾配に従って、
細胞の外から大量の水が細胞内へと一気に流入してしまいます。
その結果、細胞は水風船のように膨れ上がり、
破裂を避けるためにそれ以上の糖質を物理的に蓄えることができなくなります。
そこで身体は、数万個のグルコースをグリコシド結合によって1つの巨大な塊(グリコーゲン)へと連結(モル濃度を0.01μM以下にまで圧縮)するのです。
分子の「個数」を劇的に減らすことで、
細胞内の浸透圧を安静時の正常範囲に保ち、
余分な水の流入を防ぎながら、
限られた細胞内のスペースの中に高密度かつ安全にエネルギーをプールできるのです。
糖質枯渇時の緊急システム「糖新生」(筋肉の分解)
よく、筋トレをされている方が
激しい有酸素運動は筋肉を分解する
という発言をされるのを聞きます。
これは有酸素運動によって糖が枯渇することで新たなエネルギーを産むために
「タンパク質(筋肉)」を分解して、
エネルギー(糖)を生成してしまうからです。
このことを糖新生と呼びます。

以下で詳しく解説します。
体内の糖質が空っぽに近づくと、
脳や神経、赤血球といった「ブドウ糖しかエネルギーにできない最重要組織」が
機能停止に陥るのを防ぐため、
肝臓は「糖新生(とうしんせい)」という緊急の血糖維持システムを起動します。
糖新生は、
糖質以外の物質、すなわち筋肉を分解して得られるアミノ酸(主にアラニン)や、
脂肪の分解産物であるグリセロール、
筋肉の乳酸代謝から得られる乳酸を原材料として、
肝臓内で無理やり新しいブドウ糖を合成する代謝経路のことです。
マラソンレース中にアミノ酸を摂取することが推奨されるのは、
筋肉の分解からタンパク質を使うのではなく、摂取したんぱく質から糖を生み出させるためです。


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